第六話

赤竜。青竜。白竜。黒竜。
四竜は神への叛乱軍を誰より最初に創り上げた。
百万の亡者。
百万の翼竜。
それは最初の反逆大戦と呼ばれる。
これまでに起きた三度の反逆大戦の内、最も大規模だったとされる。
「最初の反逆大戦」に於いて、当初四竜の軍団は優勢を誇った。
無限の天使を片端から倒し天上の神宮へと辿り着いた。
今まで宇宙の創世より幾億の年月が経とうとも、その聖域は神域だった。
初めて、牙を剥き、銀の大剣を構えた者が土足で入り込んだのが、その時。
そして造反が起きた。
ただ一つの、生死の境目を取り無くすという目的を持って結ばれていた百万の兵が。
四半が分離した。
最初に神宮に入り込んだ尖兵が、総員。
神に、惑わされたのだ。
全知全能を冠名に持つ者に。
正の音を持つ生を与えられ、死の音である四の数を。
四つの命。
四半が四倍の力を持てば、それは全。
形成は、逆転した。
七十五万の不死の亡者は、生きた亡者が持つ銀の大剣に伏した。
そして血塗れの戦場と化した神宮。
四竜の内、黒竜と白竜が指揮した。
百年に及ぶ戦は、最後に二竜の首が撥ねられた事で結果は僅差での敗北で決着したが、全ての天使は一掃されていた。
最初の反逆大戦。
それは天使殲滅大戦とも呼ばれている。
それより三千年程だろうか。
亡者の世界は神の支配から逃れていた。
青竜が王の座を護り、増え続ける亡者は平和に暮らしていた。

そして、二度目の大戦。
最後の英雄と呼ばれる大竜が起こした。
何が理由かは、未だ民衆は知る由の無い戦。
先の大戦でも山で眠っていた竜は、四竜を束ねる存在であった。
「大竜戦役」
そう呼ばれるのは、あまりにも神々しい神への反逆者であったから。
たった一匹で神宮を破壊し、そして神と対峙する。
竜と神。
古来より伝わる陰陽の形が完成していた。
そして千年。
不死と最強を誇る両雄に、そう簡単に勝負が決まる筈も無かった。
裏切りに、勝負は決した。
大竜を背後から襲ったのは、青竜。
神は、大竜を抑えた青竜ごと殺した。
多くが謎に包まれた戦役は、五千年前。
伝説も口伝も廃れた頃。
最後の戦役が起きた。
「殺神」
ただ、そう呼ばれる戦。
群衆を率いたのは、正宗。
最強の生物たる竜では無かった。
亡者。誰よりも何よりも心に刃を置く亡者が、赤竜を従えて神に刃向った。
間違った世界を正すため。
亡き王の意志を継ぎ、世界を平和にするため。
そして無限の天使を撃ち殺し、玉座の神を殺した。
あまりにも容易く、殺した。
有ってはならない事が起きたこの戦から、世界は狂う。
殺神の名を背負った亡者は、真の不死を得る。
その亡者に従いし竜は、世界を一日で壊す力を。
狂った世界の螺子を直すのは、神の役目であった。
何処までも歯車は狂い、螺子は歪む。
何処までも。何処までも。

カラカラカラカラ

世界の英雄と呼ばれていた五人組の侵入者を赤竜は一撃で屠る。
王は、それさえも気に留めず。

「敵が現れました」

歯車は最早、運命を紡ぐ機械より全て外れてしまっている。
神は、死んだ。
運命を知りえる唯一の存在が。
赤竜の言葉は、あまりにも清清しく恐ろしい。

カラカラカラ

骨と骨が噛み合う高い音。
とても機嫌が良い時の笑い声であった。
最後にこの声を挙げたのは、百年ほど前。
この完全に閉じられた部屋が、海底に沈んだ時以来だった。


「倒そうじゃないかぁ。我等の敵を」
髑髏は笑う。
王は命令する。
長い黒マフラーの尾は竜の吐息が生んだ風の流れに乗る。

第七話

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