第七話

髑髏の王。
正宗という名は父から一文字貰った。
正義。父は名を体で表すという人であった。
古くから伝わる銘刀を名に持ち、正宗も身を粉にして戦った。
最後の竜を従えて、世界を統治し守護していた。
あらゆる天災の訪れない世界は、無二。
晴の合間に雨が定期的に振り続ける世界。

崩れたのは、今日。
嵐が起きた。
これは、世界が持つ敵を滅す自己防衛の機能。
雹が舞い踊り、豪雪は止まない。
世界の敵。
それが、今。
海底に存在する王宮の扉を開いた。
王の所有物が無ければ開かない扉を、敵は容易に開いた。
扉は、その本来の役割を捨てて己を護った。
自身から開き、強大な敵を招きいれた。

「正宗だな」
意外にも静かな口調だった。
鬼の面を被り、全く顔を覆う者。
犬狼の様な耳を持ち、人の身体をしている。
伝説にある神の生んだ人との子が、酷似している。
灰色の衣は、その身を引き締めていた。
まるで相反する規律と暴力の世界に身を置く者の様に、大義と己の義を持っている事を感じとった。
王と、竜。
神に手向かった最強の者は、そして恐怖心を持つ。
「はい」
手に持つ銀の大剣は、神の首を撥ねた。
その返り血は絶大なる聖の力を剣と剣士に与えていた。
一振りすれば、世界を絶つ。
先の剣士が持っていた聖剣が、それだ。
しかし、人の剣士は使いこなす事が出来なかった。
「話が有る。応じなければ殺す」
優しい声は、淡々とした口調。
まるで何の感情込まない声は、恐ろしい事を言っていた。
大根役者の様に、込められないのでは無かった。
あえて込めない事で、事実だと相手に伝えていた。
「何だ」
正宗の一言から少し、間が合った。
竜と王は、鬼が面の中で笑っていた事を知らない。
あまりにも口調が同じだった。自身と。
「殺神の王。手を組もう」
代行者よりも、幾分も大人しい。
無感情は感情の表れだった。
差し伸べた右手は、代行者の様に。
それに、吸い込まれる様に意識が向かう正宗。
しかし辛うじて無意識を抑える。
独りであったならば、手を差し伸べていたかも知れない。
竜が、居てくれた事が大きかった。
安心して存在できる空間。
王は強かった。
「何を望む」
カラカラと髑髏が動く。
マフラーは靡く。
「力と、未来」
この、鬼の発言には到底信じられない程の力強さだった。
竜は眼を閉じた。
金色の丸い瞳は何も見えなくなる。
「親しき者を殺した者が、か」
王は、眼無き眼で鬼を見据える。
強く。
何も知らぬ王は、故に何かを感じた。
「殺した友の為にだ」
腹をナイフで抉られ、己の思いを相手に全てぶちまけられようとも、平然な顔で語る。
それが、人を辞めた鬼。
激しい嘔吐感の中で、平然に寂々と。
「ならば、断る」
王は、断言する。
訳を聞き、その上で否定する。
「そうか」
永遠の不死を死して生きる王は、過去を否定した。
友を。親を。歴史を。否定する。
全ては過去だ。
過去を変える事が出来れば、それは過去では無い。
永劫に続く過去と未来は、何処までも酷似しているが、絶対に異なる。
友の死を。
死んだ友を。
友を殺した事を。
殺した友の為に。
過去の為に未来を臨む事を。
全ては過去に囚われていた。
王は、それを拒否した。
つまり殺神の者は殺神さえも過去とし、斬り捨てている。
「そうだ」
力強く、一言。
圧倒的な程、力を込めて。
髑髏の顎が動く。

「ならば、私が君を貰う」

突き刺さった剣。
正宗の持つ銀の大剣よりもふた廻りも大きい剣。
まるで神話の大蛇を貫く様な。
殺竜剣。
最強の生物を殺すためだけに拵えられた刀身と柄。



赤竜の額を地より垂直に貫いていた。





声の主は如月でも正宗でも、ましてや赤竜でも無かった。





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